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臓器移植 (住職のブログ)
2025/03/29 (土)
今月、当山で初めて臓器を提供した、若者の葬儀を執り行った。日本の脳死による臓器移植の1177例目であった。臓器移植法の施行から20年以上が経つので、年間50例程である。米国では、年間140000例以上であることを考えると、日本の臓器移植が極めて少ないことがわかる。なぜ少ないのかと言えば、臓器移植に関するガイドラインが厳しく、施術できる病院が限られ、脳死が「臓器を提供される場合に限って」人の死とされることが、影響していると考えられている。
今回の臓器は、心臓が東大病院、肺は京大病院と獨協医科大病院、肝臓は京大病院、すい臓と腎臓は九州大病院、もう片方の腎臓は東北大病院に提供され実施された。九州大病院からは、プライベートジェット機で医師が付き添い臓器を受け取りにきた、大がかりのものであった。これだけの臓器移植を承諾した家族に、提供された家族は感謝しかないだろう。日本の臓器移植が少ない現状を変えるには、どうすればよいか国全体で考えなければならないと同時に、テレビ等を使ってもっと啓蒙することが必要だろう。
臓器移植を妨げる一つの要因として、日本の宗教にあるのではないかと考えている。それは、お盆の行事である。お盆は、最大の仏教行事で、亡くなったご先祖が帰ってくるので、仏壇に盆棚を飾りキュウリの馬とナスの牛をお供えして、ご先祖をお迎えする。それは、ご先祖が馬に乗って早く帰ってこい、帰る時は牛に乗ってゆっくり帰りなさいという意味が込められている。お盆は、使者と生者が楽しく過ごす大切な一時である。この時に、臓器がなければ「あの世」から「この世」に帰ってこれないのではという、漠然とした恐怖心が躊躇させるのではないか、これは心情的なものだけになかなか難しい問題である。
その一例として、お盆にお経に伺う家の仏壇の盆棚に、ベンツとロールスロイスのミニカーが供えてある。なぜなのかと言えば、故人は大の車好きで、生前にお盆に帰ってくる時に、馬や牛には乗れないので、車を用意して欲しいとの希望であった。家族は、故人の意を酌んで、生前乗れなかった高級車を準備したとの事であった。確かに、臓器が亡くなれば、高級車に乗れなくなるのではと心配する家族の心情も理解できる。臓器移植の難しさを、改めて実感させられる出来事であった。
土葬墓地問題 (住職のブログ)
2025/02/27 (木)
2月20日、宮城県議会において、イスラム教徒の土葬墓地問題が議論された。佐々木県議は県民の「土葬になじみがない」現状に鑑み、土葬墓地の県内整備に疑問を呈した。それに対し、村井知事は「それぞれの人が望む弔い方に対応する必要がある」と前向きな答弁を行い、他県の事例調査を行っていることを明かした。この議論の伏線は、河北新報2月6日付の記事「増えるムスリム望む土葬」が掲載され、全国の地図上に10ヵ所の土葬墓地が表示されていた、しかし、東北には1ヶ所もない。この現状を見ると、土葬墓地問題を議論するだけではなく、将来どこに設置するのか、早急に具体案を示すことが求められる。
宮城県は労働力不足を補うため、世界一イスラム教徒の多いインドネシアから、多くの労働者を受け入れる方針なので、土葬墓地の必要性が高まるのは自明である。イスラム教徒にとって、なぜ土葬墓地が必要なのかと言えば、イスラム法によって火葬が禁止されているからである。火葬率99.9%の日本において、土葬墓地設置のハードルは高い中、どのように住民の理解を得るのか、丁寧な説明が求められる。大分県日出町では、条件付きで土葬墓地を認めることになっていたが、昨年8月の町長選挙で設置反対派の町長が当選し、一転白紙にもどってしまった。この一件は、いかに地元住民の理解を得る事が難しいかを、如実に物語っている。
それでは、なぜ日本が世界一の火葬国になったのかと言えば、様々な理由があるが、宗教的問題がなかったことが大きい。仏教では、教祖であるお釈迦様が火葬され、その舎利が信仰の対象にされたので、火葬に対する忌避感がなかった。また、日蓮聖人も東京・池上で火葬され、山梨・身延山の御廟所に納骨されている。そして、舎利信仰の象徴である仏舎利塔は、全国各地にあり仙台でも国見峠に建立されている。このように、日本は火葬され舎利になる事が当たり前の社会なので、土葬に対し住民が拒否反応を示すのは、仕方のないことである。しかし、日本の法律「墓地埋葬法」では、土葬は禁じられていないので、悩ましい問題である。
当山近くの放山地区には、東北で唯一のイスラム教のモスクがある。金曜日には、お寺の下の国道を三々五々、礼拝に向かう姿をよく見かけるが、その熱心さには驚かされる。イスラム教は、偶像崇拝も禁止なので、仏像を壊すような狂信的なムスリムが現れないことを、願っている。
トランプ大統領の創り方 (住職のブログ)
2025/01/30 (木)
1月20日、ドナルド・トランプ大統領の第47代米国大統領就任式が、豪家メンバーを随え華やかに執り行われ、第2次トランプ政権が発足した。トランプ大統領は、就任式直後から矢継ぎ早に大統領令を連発し、国内外に波紋が広がった。トランプ大統領の特徴は、関税を武器に取引し米国に有利な条件を引き出すことである。早速、貿易赤字の大きなメキシコ・カナダには、25%の関税を検討していると脅した。このような交渉スタイルが、日本にどのような影響を及ぼすのか、石破首相の力量が試されることになる。トランプ大統領の再登場を考えると、盟友安倍元首相を失ったことは、返す返すも残念である。
トランプ大統領の発言や行動は型破りで、耳を疑うようなエピソードであふれている。そんな大統領がどのように創られたのか、その一端を描く映画が公開されている。昨年8月に米国で公開された時は、トランプ大統領が上映中止を求めた、いわくつきの映画である。その映画、「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」が仙台で上映されることになったので、先日50年ぶりに映画館に足を運んだ。それにしても、大統領選挙中に知られたくない若かりし時代を映画にするとは、米国はすごい国である。
この映画は、若きトランプ大統領が伝説の悪名高き辣腕弁護士、ロイ・コーンに弟子入りし、劇的に変貌する姿を描いている。コーン弁護士から、勝つための3つのルールを叩き込まれる。1.攻撃・攻撃・攻撃2.全否定で押し切れ3.決して負けを認めるな、この3つの教えは現在のトランプ大統領にも受け継がれている。コーンにとって、若きトランプはアプレンティス(見習い)であり、かわいい弟子であった。この映画は、トランプ大統領の「見習い」時代を強烈な映像で描き、見る者を引き付けると同時に、考えさせられる映画であった。
この映画の監督はイラン出身、トランプを演じた男優はルーマニア出身、妻を演じた女優はブルガリア出身と多彩で、さすが移民大国米国の面目躍如である。そして、トランプ大統領を知る上で、貴重な情報を与えてくれる映画で、一見する価値はある。
能登半島地震から1年 (住職のブログ)
2024/12/30 (月)
令和6年のお正月は、能登半島地震に始まり、正月を祝う気分にはなれなかった。当山では、新春初祈禱会が終わり、皆でお茶を飲んでいた時で、少しは揺れたがこんな大地震だったとは分からなかった。テレビを見て、初めて大きな被害が出ていることを知り、東日本大震災の記憶が蘇ってきた。東日本大震災は、津波による家屋倒壊だったが、能登半島地震は激しい揺れによる家屋倒壊であった。改めて、日本は地震大国であることを、思い知らされたお正月であった。
今年は、能登半島地震の大災害、8月には「南海トラフ臨時情報」が発表され、対応に戸惑った自治体や企業が多かった。一方、庶民は地震に備えるため米の買いだめに走り、米不足に拍車をかける結果となり、町中から米が消えてしまった。30年前の米不足は、自然現象の冷害によるものだったが、今回は人災で国の情報の出し方に問題がなかったか、検証が必要である。日本に住んでいる限り、地震から逃れることは出来ないので、地震対策は必要だがパニックが起きないような情報発信の仕方に、一工夫が必要である。「南海トラフ地震」がいつ起きるのか、心配の種は尽きない。
「南海トラフ地震」は、20年前に23万人の死者・行方不明者を出した「スマトラ地震」を超える死者・行方不明者が予想される巨大地震である。「南海トラフ地震」の参考になるのは、1707年の「宝永地震」だろう。この地震は、日本史上最大の大地震と言われ、関東から九州まで地震・津波が広範囲に及んだ、東海・東南海・南海の三連動地震である。その49日後には、富士山の大噴火で未曾有の大災害を引き起こし、江戸にまで火山灰が降りそそいだと言われている。近い将来に、起きるだろうと言われる「南海トラフ地震」は、日本にとって一大事、最大の関心事である。
能登半島地震から一年、被災地は高齢化・人口減少が進み、半島・軟弱地盤という今までにない難しい地域である。これまで以上の、行政・ボランティアの力が必要で、一日も早い復旧・復興を願っている。